発達障害で障害年金を受け取るためには

近年、社会に出てから発達障害と診断され、仕事が続かないことや、人間関係で悩まれている方からの相談は年々増加しています。いわゆる「大人の発達障害」と言われるものです。
今回は、発達障害とはどのようなものなのか、発達障害で障害年金はもらえるのか、について解説していきます。

 

発達障害とは

発達障害とは、生まれつきの脳の特性です。特定のことには優れた能力を発揮する一方で、ある分野は極端に苦手、といった特徴がみられます。
症状が軽い場合、発達障害に気付かず、大人になってから自覚したり、診断で発覚する場合もあります。

発達障害の症状

発達障害の中には、大きく分けて3つの種類があります。
これは、人によっては複数の種類をあわせ持つ場合もあり、一概にこの症状だからこれだ、と決めつけるのは誤った固定観念を持ってしまうため注意が必要です。

ADHD(注意欠陥・多動性障害)

ADHD(注意欠陥多動性障害、Attention Deficit Hyperactivity Disorder)は、主に注意力の欠如、多動性、衝動性の3つの特徴があります。子どもに多く見られますが、大人になっても症状が続く場合があります。

子どもの多動性:衝動性は、落ち着きがない、座っていても手足をもじもじする、席を離れる、おとなしく遊ぶことが難しい、しゃべりすぎる、順番を待つのが難しい、他人の会話やゲームに割り込む、などで認められます。

不注意の症状は、学校の勉強でミスが多い、課題や遊びなどに集中し続けることができない、話しかけられていても聞いていないように見える、やるべきことを最後までやりとげない、課題や作業の段取りが苦手、整理整頓が苦手、宿題のように集中力が必要なことを避ける、忘れ物や紛失が多い、気が散りやすい、などがあります。大人になると、計画的に物事を進められない、そわそわとして落ち着かない、他のことを考えてしまう、感情のコントロールが難しいなど、症状の現れ方が偏しますが、一般に、落ち着きのなさなどの多動性-衝動性は軽減することが多いとされています。

また、不安や気分の落ち込みや気分の波などの精神的な不調を伴うこともあります。

ADS(自閉スペクトラム症)

ASD(自閉スペクトラム症、Autism Spectrum Disorder)は、社会的コミュニケーションや行動における困難を特徴とする神経発達障害です。広範囲な症状が見られ、個人によってその程度や現れ方が異なります。

目を合わせない、指さしをしない、微笑みかえさない、あとおいがみられない、ほかの子どもに関心をしめさない、言葉の発達が遅い、こだわりが強いといった様子がみられます。

保育所や幼稚園に入り、一人遊びが多く集団活動が苦手なことや、かんしゃくを起こすことが多いことで気づかれることもあります。

言葉を話し始めた時期は遅くなくても、自分の興味のあることばかりを話し、相互的に言葉をやりとりすることが難しい場合もあります。

また、電車、ミニカーやビデオなど、自分の興味のあることには、毎日何時間でも熱中することがあります。初めてのことや決まっていたことが変更されることは苦手で、環境になじむのに時間がかかったり、偏食が強かったりすることもあります。

思春期や青年期になると、微妙な対人スキルを求められることも増えますし、学習課題においても多様な能力を総合的に求められる機会が増えます。

就職してから仕事が臨機応変にこなせないことや対人関係などに悩み、家庭生活や子育ての悩みを抱え、病院を訪れる人もいます。不安やうつなどの精神的不調を伴うこともあります。

また、成人期になってから日常生活、家庭、職場などで困難を抱え、精神的な不調を伴い支援を必要とすることもあります。

LD(学習障害)

LD(学習障害、Learning Disabilities)は、知的能力に問題がないにもかかわらず、特定の学習領域で困難を抱える障害です。読字障害(ディスレクシア)、書字障害(ディスグラフィア)、算数障害(ディスカリキュリア)などが含まれます。

発達障害で障害年金はもらえる?

発達障害によって仕事が続かず、収入が安定しないというご相談をいただくことがあります。そのような人にこそ知っていただきたい制度が、障害年金です。障害年金受給は難しいと思われている方もいらっしゃいますが、障害年金はいくつかの受給要件を満たせば、受給できる可能性は十分にあります。障害年金を受給することができるのであれば、仕事が続かなく、不安定な収入でも経済的な支えになるのではないでしょうか。

それでは、障害年金を受給するための要件をお伝えしていきたいと思います。

障害年金を受給するための要件とは?

  • 初診日要件

初診日とは、障害の原因となる病気やけがの診断を受けた日です。障害年金を受け取るには、初診日に国民年金か厚生年金に加入していることが必要です。(20歳前傷病を除く)

初診日に加入している年金制度により、もらえる障害年金の種類が変わります。

国民年金の場合:障害基礎年金:1級、2級のみ

厚生年金の場合:障害厚生年金:1級、2級、3級、障害手当金※

※障害手当金は、障害認定日に障害等級にあてはまらない軽い障害が残ったときに支給される一時金

障害基礎年金は、1級・2級までしかありませんが、障害厚生年金は1級・2級・3級・一時金まであり、受給対象の幅が広く設けられています。

また、もらえる年金額も大きく異なるため、初診日がいつになるかはとても重要です。

  • 保険料納付要件

初診日までの保険料(国民年金や厚生年金)納付条件を満たしていることが求められます。

保険料納付要件の詳細

  • 初診日の前日において、年金加入期間のうち2/3以上の期間で保険料が納付されていること

または

  • 初診日の前々月までの1年間に未納がないこと(特例)

※初診日が20歳前の場合:保険料納付要件は問われません。

  • 障害認定日要件

障害認定日とは、原則として初診日から1年6か月を経過した日とされており、この日の障害状態によって、障害年金を受け取れるか判断します。

障害状態については、発達障害の認定基準の例示は下記のとおりです。

【3級】
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、社会行動に問題がみられるため、労働が著しい制限を受けるもの。
※3級は初診日に、厚生年金に加入している場合のみが対象です。
【2級】
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの。
【1級】
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの。

さらに、等級の判定は、以下の就労状況や生活の実態についても総合的に考慮して判定されます。

・たとえ知能指数が高くても、コミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行えず、日常生活に著しい制限を受けることに着目して認定を行う

・日常生活能力等の判定の際は、身体的機能や精神的機能を考慮のうえ、社会にどの程度適応できるかによって判断するよう努める

・一般就労している者であっても、日常生活能力が向上したものと捉えず、療養状況を考慮し、仕事の種類、内容、就労状況、職場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断する

働きながらの受給は可能でしょうか?

発達障害で悩まれている方々には、自分の悩みに合った職場で働きたいと思われる方もいらっしゃいます。そのような方々が不安に思われることは、働いている状態でも障害年金を受給できるかどうか、ということではないでしょうか。結論として、働いている状態でも障害年金を受給できる可能性はあります。

しかし、申請において、就労の有無が非常に重要な判定要素となるのは事実です。発達障害を含めその他精神疾患の場合、審査基準において、障害の程度を表せる数値がないのが現状です。そのため、日常生活能力や就労状況(労働能力)で総合的に判定されることになります。

職場において、業務のサポートをしてもらっているなど特別な配慮がなされている場合、完全に労働能力がある状態とはいえない可能性があり、場合によっては障害年金を受給できる可能性があります。
また、障害者雇用での就労や、社会復帰施設、就労支援施設、社会福祉法人での簡易な軽労働の場合も同様に、「労働能力がある」とはいえないと判断される可能性があります。そのため、働いている場合であっても障害年金を受給できることはあります。

障害年金を受給していることを周囲に知られる?

「障害年金をもらっていることって周囲の人に知られてしまいますか?」というご相談がよくあります。ご心配される方は多いですが、障害年金を受給しているかどうかについては、受給者ご本人から会社や他人へ申告しない限り、知られることはございません。
障害年金は非課税で社会保険料に影響しないので、年末調整の際に申告する必要がありません。ただし、健康保険の傷病手当金を請求する場合、申請書に障害年金の受給有無を記入する欄がありますので、会社経由でこの手続きを行うと知られることになります。

発達障害で障害年金を受給するための注意点

発達障害で障害年金を受給するためには、いくつか注意点があります。一つずつ見ていきましょう。

「知的障害を伴った発達障害」の初診日の考え方

初診日とは、原則として、初めて病院を受診した日となりますが、知的障害については、例外的に生まれた日になります。知的障害を伴う発達障害の場合も原則として同様の扱いとなります。成人後、厚生年金加入中に初めて受診し、「知的障害を伴った発達障害」と診断されたとしても、原則として生まれた日が初診日となります。

病歴・就労状況等申立書の書き方

「病歴・就労状況等申立書」とは、発病から初めて病院を受診するまでの経過、その後の受診状況、日常生活や就労状況などについて記入する書類です。医師が記入する診断書とは異なり、申請者本人が記入します。

大人の発達障害の場合でも、出生日から現在までの状況を記載する必要があります。保育園や幼稚園、学校で困ったことや、先生に指摘されたことなど、具体的なエピソードがあれば記載すると良いでしょう。

働きながら申請する場合

働きながら申請する場合、就労の実態を診断書などの申請書類に反映させることが大切です。実態がきちんと反映された診断書を作成するために、雇用形態、仕事内容や会社から受けている配慮、帰宅後および休日の体調など、ご自身の状態を正確に医師に伝えることが重要です。
実際は、無理をして働いている状況や、帰宅後にはどっと疲れが出て何もできない、などの状態にあったとしても、その状態をうまく医師に伝えることができていなければ、診断書に反映されることはありません。実際の状態と解離した内容の診断書にならないよう、日ごろから医師とコミュニケーションをとり、ご自身の就労状況を伝えておきましょう。

一人暮らしをしている場合

発達障害やその他精神疾患の場合、就労状況と同じく、生活状況も障害年金の審査において重要な判断要素になっているため、一人暮らしをしていることは審査に大きな影響を与えます。
障害年金の審査は書類審査のみになるため、「一人暮らしをしている=自立ができている」と評価されてしまう可能性があります。
一人暮らしをされている方の中には、さまざまな理由でやむを得ず一人暮らしをしており、部屋が整理できずゴミ屋敷になっている、家事ができず栄養失調になっている、など実態は自立しているとは言えないような方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、一人暮らしではあるが、日常的に家族の援助や福祉サービスを受けて生活が成り立っているというケースもあると思います。
一人暮らしで障害年金を申請する場合は、必ず「一人暮らしである理由」を申請書類に記載しましょう。(例えば、母親と二人暮らしだったが母親が死亡した、など)
また、援助を受けている場合は、受けている援助の内容を記載するようにしましょう。援助がない場合も、援助がないことで、いかに生活が成り立っていないかを、記載する必要はあります。

まとめ

大人の発達障害で、障害年金を受給することは可能です。大人の発達障害で障害年金を申請する際には、日常生活や就労状況にどの程度支障があるかが重要になります。特に、診断書の内容は重要な判定要素となります。そのため医師にご自身の状況をしっかり伝えて診断書を作成してもらう必要があります。
また、病歴・就労状況等申立書もご自身の状況に即し、診断書と相違のない内容で記載する必要があります。
このように障害年金の申請においては、注意すべきことが多いことや、制度自体が複雑なため、「自分には難しそう」と感じるかもしれません。ご自身で障害年金の準備が難しいときには、公的年金制度のプロである社会保険労務士に相談してみてはいかがでしょうか。
当サポートセンターでは、無料で個別相談を実施しております。予約制となっておりますので、お電話またはメールにてお気軽に問い合わせください。

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